[短編]彩華
その光景は、薄明かりの下で消え入りそうに誘う、白く儚げで妖艶なくちなはの姿と、酷く不釣り合いだった。

「…大丈夫かよ。」

私の声が響く。

くちなはが顔を上げた。

色香が零れる。

女の私でも、思わずぐっときてしまう程。

「やりすぎじゃねぇのかぁ。ちぃと。」

私は、放ってあった着物を取って、まだ震えている彼女の肩に掛けてやった。

「嫌いなんだろぉが、こういう遊びは。」

「…余計なお世話だよ。」

「早死にすんぞぉ。」

「かまわないさ。」

拗ねたように呟いて、くちなはは涙を拭った。

「早く抜け出したいのさ、この地獄からね。」

くちなはは、藍色の瞳だけでこちらを見上げた。

売られてきたばかりの、異邦の、娘。

彼女はすぐに顔を伏せると、横を向いて苦しそうに咳こみ、血の交じった物を吐きだした。

私は、背中を擦ってやって、窓を開けてやった。

四角い夜の中に、月が、見えた。

私たちは地獄から抜け出す為に、地獄を重ねるのだろうか。

地獄を重ねたら、いつかそこに光を見るのだろうか。

くちなはの泣き声が聞こえる。

夜が明けて、また夜が来たら、私はまた美しく着飾って客の前で笑う、哀れな道化になるだろう。
< 6 / 30 >

この作品をシェア

pagetop