dim.
 車に戻ってしばらく走ると穏やかな海が見えてきた。
港はとても暗いんだけど、対岸に見える大きなホテルの明かりがゆらゆらと海面に映って
すごくきれいだった。

「うわー!すごいきれいだね!」
「そうか?何回も来てると普通にしか見えねーな。」
「そんなに来てるんだ?さすがモテる男は違うねぇ。」
「お前なんだその言い方?」

ちょっとだけ怒った口調で言うのがおかしくて、つい笑ってしまった。つられて電話の人も笑う。
「もうホントウケるんだけど…。」
「ふっ。お前に合わせてやってんだよ。」
「えー。別に合わせてくれなくて大丈夫だよ?私が合わせてあげるから♪」
「お前なぁ~」
「お前じゃなくて、は・る・か!」
「無駄にかわいい名前だな…。」
「ちょ!なにそれ~~。って、電話の人はなんて名前なの?」
「俺、電話の人??なんて呼ばれ方だよ。」
「だって…名前知らないからさ。教えてくれたらちゃんと呼ぶよ?」
「俺は直人。」
「へぇ~~。な・お・と♪」
冗談っぽく甘えた声で言ってみた。

「お前なぁ…。」
「お前じゃなくて?」
「はるかだろ?はるか!」
「そうそう。よくできました♪」
「ホント…ガムテープ買ってくれば良かった。」
「なおくん、怖いよぉー?」

 なおくん…って呼んだ時、一瞬顔が曇ったのがわかった。
たぶん、うまくいってないって言ってた彼女にそう呼ばれてるのかも…。
まずいって思った瞬間

「なおくんって言うな。」

ってちょっと冷たい声で言われてしまった。

「ごめん…。もう呼ばないよ。」
「それでいい。」

そして、直人は窓の外を見つめた。
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