正夢、誤夢
気付かぬ変化
『ただいまー』
おかえり、という返事は帰ってこない。佐奈は母と2人暮らし。母はと言うと、あののほほんとした性格でありながら、実はバリバリのキャリアウーマンなのだ。女手一つであたしを育ててくれている。ありがたいことに大学まで行かせてくれることを、許してくれている。
母はキャリアウーマンながらも、仕事と家庭の両立は出来ていた。ちゃんと、出来ていたのだ。それなのに、
―父親の浮気―
そう。ありがちな、なんともありがちな離婚の原因。
ただ、一つ違ったのは、母は泣きつくことも、慰謝料を請求することもなかった。
それもそのはず、収入は母の方が父より優っていたのだ。
冷めた目で一言、
『判子、お願いしますね。』
あの目はいまでも忘れることができない。否、忘れてはいけないのかもしれない。
冷たさのなかにある、芯の通った温かさ。きっと彼女なりの、あたしを養っていくという決意だったのだろう。
そして、泣きついたのは―父だった。父はこう言った…
―お前を嫌いになったんじゃない!
―ただ、寂しかったんだ
―俺がいなくても、我が家がなりたっていたことが
―誰かに、俺だけを見て欲しかった…
―頼む!―考え直してくれ!!
―…頼むよ…美佐子…
おかえり、という返事は帰ってこない。佐奈は母と2人暮らし。母はと言うと、あののほほんとした性格でありながら、実はバリバリのキャリアウーマンなのだ。女手一つであたしを育ててくれている。ありがたいことに大学まで行かせてくれることを、許してくれている。
母はキャリアウーマンながらも、仕事と家庭の両立は出来ていた。ちゃんと、出来ていたのだ。それなのに、
―父親の浮気―
そう。ありがちな、なんともありがちな離婚の原因。
ただ、一つ違ったのは、母は泣きつくことも、慰謝料を請求することもなかった。
それもそのはず、収入は母の方が父より優っていたのだ。
冷めた目で一言、
『判子、お願いしますね。』
あの目はいまでも忘れることができない。否、忘れてはいけないのかもしれない。
冷たさのなかにある、芯の通った温かさ。きっと彼女なりの、あたしを養っていくという決意だったのだろう。
そして、泣きついたのは―父だった。父はこう言った…
―お前を嫌いになったんじゃない!
―ただ、寂しかったんだ
―俺がいなくても、我が家がなりたっていたことが
―誰かに、俺だけを見て欲しかった…
―頼む!―考え直してくれ!!
―…頼むよ…美佐子…