正夢、誤夢
当時あたしはまだ小学校の5年生だった。5年ながらに、親の修羅場を見ているのに、なぜか頭は冴えていた。
いや、なにも深く考えてはいなかったのだ。ただ感じるままに、頭で意見を言っていた。
あたしは、女手一つで子供を育てていく大変さを知らなかったんだ。

ただ、強く感じたのは、母への尊敬と父への軽蔑だった。


―お母さんはすごい。
―お父さんはずるい。

―うろたえず、かっこいい。
―うろたえて、かっこ悪い。

―ちゃんと考えてる。
―なんも考えてない。

―男の人みたい…
―女の人みたい…



ただ黙って、紙きれをわたす母。
泣きじゃくる父。


いつもは、"お前"なんて言うくせに、こんな時ばから母を名前で呼ぶ父親に、あたしは酷く腹をたてた。


あたしは、その時、愛なんてまだ知らない。
そして今だって、まだ理解なんかしてない。


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