正夢、誤夢
『うわっ!な、なに!?』

『先輩、肩に力入りすぎですよ。』

『ああ。なんだ、成瀬君か。』

『なんだ、は酷いですよ先輩』

『どうしたの?何か用事?』

『用事がないと話かけちゃいけないんですか?』
ニコニコニコニコ。

佐奈の母、旧姓、橘美佐子は仕事とプライベートは使い分ける人間で。正直、このニコニコ話かける後輩、成瀬仁志の対応に困っていた。

『そういう訳じゃないけど、あたしこれ今日中に片付けなきゃだから…』

『何か手伝うことありませんか?僕、片付けちゃったんで。』

『ないない。ほら帰った帰った。』

『ちょ、先輩!待ってください。ちょっとお願いがあるんですよ。』

『ん?何?』
カタカタカタカタカタ

『今日呑みに行きません?』

カタカタ…、ピタ。

『…は?』

『だから、呑みに行きませんか?』

『誰が?』

『先輩が。』

『誰と?』

『僕と。』

『何で?』

『そんなんに理由いりますか?』

『奢って欲しいの?あたし今日あんま手持ちが…』

『違いますよ!そんなの僕が誘ったんだから、僕が払いますよ。』

『は…?いやいや、後輩に払わせるのはちょっと…』

『外にいったら先輩後輩なんか分かりませんって。むしろ男、女の方が明白なんで、ノープログレムです。』

驚いた。この会社に、しかも後輩に、自分を女扱いする人間がまだ残っていたという事実に。

『ねっ?』
ニコニコ話すこの男に、悪意は無さそうだ。

たまにはいいか…

『じゃあ、これ終わったらね。』

『まじですか!?やりっ!!!』
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