正夢、誤夢

―――――――

ガチャガチャ

『ただいまーっ!!!』

『お帰りなさい。』

くんくん。
『今日は…カレーかな?』

『正解でーす。』

『やった!いつも悪いわねぇ。』

『いやいや。あたし料理好きだし。料理してるとボケないらしいよ。』

『あらやだっ!じゃあお母さんがボケちゃうじゃない!』

あはははっと笑う美佐子。離婚しても旧姓に戻さず、成瀬のままだ。そして佐奈もまた、生まれてから成瀬で育った。今さら橘に帰る気など毛頭ない。
しかし、疑問である。
離婚したばかりの時は、名字が変えられるなんて知らなかったものだから、当たり前のように暮らしていた。でも今は、旧姓に戻せることを知っている。

(何でだろう?)

ボーっと母の顔を見る。

『なに?お母さんの顔に何かついてる?
それとも美人すぎて見とれてたのかしら?』
オーホッホッホと大げさに笑う母親。

『いや、しわが増えたなぁっと思って。』

『ちょ、聞き捨てならない!親に何てことを!!夜ご飯抜きにするぞ!』

『いやいや作ったのあたしだからね。』
何故旧姓に戻さないのかという疑問。
しかし自分も成瀬という名字が気に入っているため、わざわざ聞く気にもならない。

それに、こんなおちゃらけた母を見てると、もはや何も考えていないのではないか、という考えが浮かぶのもまた事実。



『あっ!佐奈。そういえば昨日のテレビ通販のだけど…』


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