龍馬! ~日本を今一度洗濯いたし候~
 龍馬は、表では威張り散らしている侍が、質屋に刀剣や壺などをもってきてへいへいと頭を下げて銭を借りる姿をみて育った。……侍とは情なき存在じゃきに。幼い龍馬は思った。
 幸は懐妊中、雲龍奔馬が胎内に飛び込んだ夢をみた。そのため末っ子には「龍馬」と名付けたのである。
 いろいろと騒ぎを起こす八平の元で、龍馬は順調に育った。幸も息子を可愛がった。
 しかし、三歳を過ぎた頃から龍馬はおちこぼれていく。物覚えが悪く、すぐに泣く。
 いつまでも”寝小便”が治らなかった。
「馬鹿」なので、塾の先生も手を焼く。すぐ泣くのでいじめられる。
 そんな弘文三年に、龍馬は母を亡くした。龍馬が十二歳のときだった。
           母のかわりに龍馬を鍛えたのが、「坂本のお仁王様」と呼ばれた三歳年上のがっちりした長身の姉・乙女だった。
 乙女は弟には容赦なく体罰を与えて”男”として鍛え上げようとした。
「これ! 龍馬! 男のくせに泣くな!」
 乙女は、びいびい泣く龍馬少年の頬をよく平手打ちした。しかし、龍馬はさらに泣く。    
 いじめられて友達もいないから、龍馬は折檻がいやで堪らない。
「泣くな! これ龍馬! 男は泣いたらいかんきに!」
 乙女は龍馬を叩いたり蹴ったりもした。しかし、けして憎い訳じゃない。すべては立派な男にするためだ。しかし、近所からは”「坂本のお仁王様」がまた馬鹿弟をいじめている”……などと噂される。乙女も辛かったろう。しかし、乙女はけして妥協しない。
 
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