初雪の日の愛しい人[短編]
 泣きながらあいつの部屋を出た。
 外はすっかり真っ暗で、凍えそうなくらい冷え切っている。

 手をコートのポケットに突っ込んで、足早に歩く。
 ヒールがコツコツと硬い音を響かせる。

 いつからだろう。
 高いヒールの靴ばかりを好んで履くようになったのは。
 服だってそこそこ値段のするものを買って、メイク道具はどんどん増えてゆく。

 ――自分を飾らずにいられなくなったのは、いつからだっただろう…。

 歩きながら考えごとをして、虚しくなるのはしょっちゅうだった。

 あいつに浮気を繰り返されて、性懲りもなく傷つくのも。

 こんな夜に、追いかけてきてもくれない男に、どうしていつまでもしがみついているのだろう。
 ――もう2年だ。

 もう、2年になる。

 あたしは唐突に立ち止まった。
 
 鞄から携帯を取り出して、何度も何度も繰り返しかけた番号へコールする。

 ――ツーツーツー…

「ははっ」

 信じられない。話中だなんて。あんた一体、誰と電話してるのよ?

 この前見かけた、栗色の髪を綺麗に伸ばした女の子かな?
 それともあのコが言っていた、いまどきのボブヘアをした華奢な女の子?

 それとも、――。

 あたしは、携帯の電源をオフにした。

 くるりと方向を変えて、夜でも明るい街のほうへ足を向ける。

 もう、どうでもよかった。
 壊してしまいたかった。

 …どうしようもなくなっている今の自分なんて

 ――捨ててしまいたかったんだ。
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