SHINE and STAR
────遅れて宙を舞う、牛の一部。
交差していた筈の、無力に等しき腕。

「いや、弱いなオマエ」

彼の勢いは衰えず、むしろ加速して足を踏み出した。ただし踏むのは地ではなく眼前の牛。
その一歩は、体格の違いを意に介せず巨体を大きく後退させる。

……呑気とも言える呟きが、今やどれ程の脅威を醸しているだろうか。

彼の表情は余裕から呆れにすら変わり行き、けれども討伐力はさらに増して牛の懐へ飛び込む、刹那に牛を通り過ぎる。

言うなれば、それは颯爽とした風の如く。
通過された牛にとっては、吹き荒ぶ暴風の如く。

そして風は────優に牛を分解していく。

「じゃあな」

ひらり、軽々しい言葉と共に彼の手が振られた。
……別段、その手は挨拶の為に振られたのではなく、代わりにまた握られる“何か”が赤く光るだけ。

瞬間、牛は赤く燃え上がった。

異形が異形ですらなくなる程の炎上に、牛は断末魔すら遺せずただ果てる事しか許されない。
あれだけ王を苦しめた元凶も、鮮やかな討伐の前には呆気なく散っていくのだった。

後になって気付く。
振られた手は、正に決別の挨拶であったのだと。
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