SHINE and STAR
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兵士は走る。
本来より多く歳を数えられるその貌を引き締め、これから対峙するであろう“恐怖”に不安を抱きながら。
しかし、普段から勇敢さを振り撒く彼にとって“恐怖”など足枷となるに足りず、彼は障害なく逡巡する事もなくある場所へ駆けて行った。

そもそも、彼はその“恐怖”を直視していないし、“恐怖”は言伝に記憶した想像でしかない。
それはつまり『未知』という事。
未だ知らないモノ、未知の恐怖は既に知っているモノ、既知の恐怖には勝らない。
“分からないから恐い、知らないから怖い”と言うのは幻想に脅されているに過ぎず、気の持ち様でどうにでも覆せる問題である。
彼は知らないから、怖じけない。また躊躇わない。
単純で当然の話なのだ。

その“恐怖”────魔物。
彼に限らず、この世界の数多くの人間にしても同様に未知であり、数秒後には既知へと変わるであろう存在。
いずれ世界は魔物を未知として認識しなくなる。
即ち既知。
即ち幻想でなくなる時。
即ち本当の恐怖に脅かされる時。

だからこそ、彼は彼なりに恐怖を取り除きたいと思った。
そして彼は走る。

フィル「にしてもどの辺りに……この方角で間違いはない筈だが」

アレイドに示された方角に進んではみたが、町は普段通りに賑わうばかり。騒ぎに賑わうのはフィルに後続する野次馬だけ。
魔物、と言うのだから一目見さえすれば大騒ぎになる可能性は否めない筈。
だとすればまだ人目に付いてないのだと推定し、ふと、空から何かが降るのを視覚した。

“降る”と言うより“下りた”何かは建物の影に隠れ行き、そして示し合わせたように悲鳴を呼ぶ。

フィル「む、漸くお出ましか!」

居場所が分かればあとは討伐するだけ。
フィルは敵陣へ踏み込む勢いで影となる建物を越え、魔物が正に人を襲う光景を────

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