ビギナーズ・アンラック
落ち着け!

今更、焦ったところで何か変わるものでもない

ここは一つ、優雅な朝食でも取ろうじゃないか
――などと、大物ぶってみても

淡々と増えていくメールの見えない重圧がオレを押しつぶすのも、そう遠くないだろう

こんな歳で自分の器の大きさを知ることになるとは
なかなか味なまねしてくれるな、涼

ブーー…

ビクッとして携帯をみる
またメールが届いた

『もう起きた?』
平凡簡潔な文章である

だが、同じ文面が今ので五通目ということに、オレの背筋は薄ら寒いものを覚えたのは言うまでもない

携帯の画面から滲み出してくるような不吉なオーラすら幻視してしまいそうだ

文章でここまでの感情表現をするなんて、お前は文豪か

いや、たとえ出版されてもオレは絶対買わんが

ブーー…
「うぉ…」

脳裏に『恐怖新聞』という怪談が浮かぶ
このメールを開いたら、オレの恐怖の未来が……

恐る恐る携帯を手に取り、メールを見る――と別に未来など書かれておらず

ただ、涼からの『もう起きた?』というメールだった

よけい怖いわ!

ここまでくれば天丼もびっくりの繰り返しっぷりである

想像してみて欲しい

芸人が、ウケもしないネタをひたすら繰り返す姿を

ある意味ホラーにみえなりか?
この際、テラーと言い換えてやってもいい

などという、無駄な妄想のおかげで
オレの頭は無事、スリープから復帰したようだ

取りあえず最優先事項は……

ブーー…

……アイツへの返信だな
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