秘密の恋の始め方
「奏太は奏太だよ! 泣き虫で優しい奏太だもん。似合わないよ、芸能界なんて!」
「……ここ最近、俺がいつ泣いたってんだ」
「え、っと……、確かに中学はいってからは見てない気もするけど」
「もっと前から見てないだろ!」
たぶん、正確にはユズコが俺の所為で額を怪我した一件以来、俺はこいつの前で泣いてないと思うんだけど。
ユズコのなかではいつだって、俺は弱いままだった。
どんだけ身長が伸びても。ユズコを見下ろすようになっても。
ユズコをからかっておもちゃにできるようになってからも、たぶんずっと。
ユズコのなかでは俺は幼い弟のような存在だったんだろう。