いちご模様の赤い傘
「寒い……」

ブルッと身を震わせて、俺は近くのタバコ屋の屋根の下に入り込んだ。

雲はさらに灰色を増し、夕焼けの街を多い尽くしていく。



駅まで引き返そうか。

だって、こんな悪天候の中、わざわざここで震えてる必要もないよなぁ。



俺は鞄の中をそっと見た。

実は、傘を持っている。

いちご模様の赤い、小さな折りたたみ傘。

恥ずかしいから差さないわけじゃない。

これは、俺の傘じゃないんだ。



駅はすぐそこだった。

なのに、足を動かす気にならなかった。

ただなんとなく、街を静かに潤していく真冬の冷たい雨を、見つめていたくなってしまったんだ。
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