203号室
一人じゃろくに家事らしい家事もできないくせに、一人暮らしというものに憧れていた。
「志望大学に合格したらって約束だっただろ」
この件に関しては、父にはいつも冷たく突き放される。
「でも大学受かったじゃん~!」
「滑り止めだろ。私大だし。家から通える範囲だし」
「でも車で30分だよー。ガソリン代かかるじゃん」
「馬鹿。一人暮らししたら家賃と光熱費と食費とでガソリン代の倍以上かかるぞ」
「もー…」
江美はため息をついた。
第一志望だった県外の大学の受験に失敗して県内の私大に通う事になり、たしかに父親の言う通り、江美が一人暮らしをする理由はなかった。
「あたしもさ、自立しなきゃと思うんだよね」
「卒業して社会人になったら嫌でも自立してもらうから」
「で、でもさ。社会人になって何も知らないのにいきなり一人暮らしって大変だと思うんだ。だから今のうちに予行演習っていうか…」
「ダメ」
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こんな会話が、江美が大学に入学してから何度も何度も繰り返され、結局江美は自宅から大学へ通い続けてすでに卒論の時期を迎えていた。