203号室
実際、自宅通いはぐうたらな江美にはやはり楽だったし、車の運転にも慣れた。
大学2年の終わり頃から付き合い始めた彼氏は地元の人だったので、江美も地元にいた方が会いやすかったというのもある。
それでも、やはり県外から来た友人の一人暮らしはうらやましかったし、サークルの飲み会なんかでは不便を要した。
何しろ地元にいる彼氏も自宅暮らしだったため、どちらかの家でまったりラブラブという江美の理想が叶わないのがくやしかった。
しかし、大学生活も残すところあと1年にもなり、江美は前ほど一人暮らしの話題を出さなくなっていた。
事態が思わぬ方向に転がりだしたのは、大学4年のゴールデンウィークが明けた頃。
夕方、仕事から帰ってきた父親の向かいで、父に出された酒のつまみの枝豆を失敬していたところに声がかかる。
「江美、お前本当に一人暮らしするか?」
「えっ?したい!でも何でいきなり?」
まさかあまりにも家でだらだらしているのを見限られて、ついには追い出されるのか?
「父さんの知り合いの娘さんがさ、急にアパート暮らしをやめることになったんだと。そんで、そこの大家に誰か次に入りたい人がいれば紹介して欲しいと言われたんだってさ」