恋の坂道発進―2010年バレンタイン短編―
1.教習所


―教習所―




小さい頃、お父さんのひざの上に座って、ハンドルを握らせてもらったことがある。


車の運転ができる人がかっこよく見えた。


まだまだ子供だった私は、車の運転がものすごく難しいものだと思っていた。





「聞いてますか?」


定員40名の教室に、ポツンポツンと教習生が座っている。


ノートに落書きしていたら、先生に声をかけられた。


あの先生、完璧に私のこと嫌ってる。





7,3よりも激しい分け目。


8,2くらいのきっちりした分け目。


異様なほど黒々していて、教習生の間では「HG」と呼ばれていた。

まぁ、簡単に言えば……「ハゲ」ってこと。






「川島さん!!ここは学校じゃないので、別に聞きたくなければ聞かなくていい。落ちるのはあなたですから」




HGは、彼なりのキツい口調でそう言って、またホワイトボードに何か書き始めた。




前の方の席の数人が私をチラ見して、くすくすと笑った。



大学の2回生の私は、友達もいなく、ポツーン状態。


高校の卒業時期に、友達はみんな慌てて免許を取っていた。


周りを見れば、私より若そうな子ばかり。




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