恋の坂道発進―2010年バレンタイン短編―
「高速教習、先生を指名していい?」
「お前、そこまでいけないだろ」
「そんなことないもん。頑張ればできるもん」
子供みたいだなって自分でも思ったけど、塩崎先生にも言われちゃった。
「あと1ヶ月で、絶対に坂道発進とS字とクランク、合格してみせるもん」
塩崎先生は、聞いているような聞いていないような顔をして、ふふふって笑った。
短いよ、50分。
あっという間に終わる。
「俺を指名せずに、頑張ってみろ。他の先生は厳しいけど、それに耐えられないようじゃ合格できないから」
助手席のドアの上に片手を乗せた塩崎先生。
待合室から視線が刺さる。
みんなが私をにらんでいるように感じる。
「はい・・・・・・ 寂しいけど、頑張ります」
「よし。ま、偶然いつか俺が担当することもあるだろうから、そう落ち込むな」
「でも、先生指名ばっかりじゃん」
「高速教習の時は、俺が乗ってやるから」
私は首を縦に二度大きく振って、その場から立ち去った。