恋の坂道発進―2010年バレンタイン短編―
5.恐怖のS字と秘密のレッスン
―恐るべしS字―
噂には聞いていた。
免許取得で最初につまずくのは、S字だと。
こんなに難しいとは思っていなかった。
あれから、ほぼ毎日教習所へ来て、真面目に学科教習をこなし、技能教習も何とか頑張っていた。
「ひょえ~!」
私が叫ぶ前に、隣に座っていたHGが叫んだ。
ヅラが飛んでいっちゃうんじゃないかってくらい、頭が左右にぐおんぐおん揺れていた。
「ちょっと……川島さん。私を殺す気ですか?」
本気でびびってるHG。
視線は常に彼の頭頂部。
不自然な真っ黒な髪はどうみても人工的。
「これでも真剣です」
私が答えると、HGはひどいことを言ってすいませんと謝った。
S字難しいよ。
1回のS字で7回脱輪。
新記録だと言って、HGは大きなため息をついた。