恋の坂道発進―2010年バレンタイン短編―
「そんなに怖いなら、指名してもいいから。坂道発進の一発目の講習……」
特別レッスンが終わり、ソファから立ち上がった時だった。
優しい声で、照れくさそうに。
ボソっと。
「いいの?」
「仕方ないだろう。他の先生じゃ荷が重過ぎるから」
私はスキップしたい気持ちで、指導員室を出た。
入口の自動ドアは、もう修理が終わったみたいで、ちゃんと開くようになっていた。
良かった。
故障していて。
良かった。
下を向いて歩いていて。
おでこぶつけて、良かった――!