恋の坂道発進―2010年バレンタイン短編―
「塩崎先生はどこですかぁ~」
声をかけられた受付女性も困った顔をしていた。
「今は、教習中です」
そう答えた受付女性の顔には、ジェラシーが感じられた。
私は、なぜかHGに縁がある。
バレンタインの日に、アイツに当たらなくてもいいのに。
「またですね」
嫌そうな顔をされるのにも慣れた。
「バレンタインだというのに、デートもなしですか?」
こんな嫌味まで言ってくる。
「先生こそ、今年もひとつももらえないんでしょ」
言い返す元気もないようだ。
HGは寂しそうにため息をついた。
HGの視線の先には、25番の車。
「あの先生は毎年山ほどもらうんですよ」
HGはそう言って、助手席のドアを開けた。
25番の車の前で、チョコを渡している女の子がいた。
塩崎先生は、手を顔の前で左右に振り、“いらないよ”的な素振りをしていた。
あの女の子は、塩崎先生の隣に座り、50分何を話すんだろう。
受け取るに決まってる。
受け取らないわけにはいかないと思う。
途中で、25番の車とすれ違った。
一瞬、目が合ったような気がした。
ドキドキする。
塩崎先生は、他の子にもあんな風にいろんな話をするのかな。