恋の坂道発進―2010年バレンタイン短編―
あんな風に堂々と、塩崎先生の車の回りでしゃがみこんだり、車に触れたりしている人を見ると、少し胸が痛む。
人気があるってきっと、辛いんだろうな。
だってさ、きっとたくさんの人から好かれたいなんて思ってないと思うんだ。
誰でもそうだけど、自分の大事な人にだけ好かれればそれでいいんだよね。
塩崎先生はどんな気持ちで、たくさんのチョコを受け取るんだろう。
「まだかな~」
「遅いね」
女の子達の声を聞きながら、私は誰からも見えない場所にしゃがみこむ。
完全な変質者な私。
それから20分くらいして、女の子達の歓声が聞こえた。
自動販売機の陰に隠れたまま、そっと顔を上げた。
真っ暗だから仕方がない。
塩崎先生はこっちを見た気がしたけど、そのまま通り過ぎて、大勢の人が待つ車へと。
「あぁ~もう、いらね~っつっただろ」
塩崎先生の声が聞こえる。
あそこに飛び込んでいく勇気は・・・・・・ない。
ない。
無理だ。
背中を押してくれる友達もいない。
ひとりぼっち。