恋の坂道発進―2010年バレンタイン短編―
人のいない職員用の給湯室へ案内された。
「あのですねぇ・・・・・・ お願いがあるんですけど」
「何ですか?」
「これ、ある人に渡して欲しいんです」
私は鞄の中からまだ温かいお弁当箱を出した。
しっかり密封してあるのに、ほんのりいい香りがした。
「僕に・・・・・・ なわけないですね?」
「はい。残念ながら」
「そのお弁当は、塩崎先生に渡せばいいんですね?」
え?
バレてたの?
一歩後ずさりした私に、HGはちょっとかっこいい顔をして言った。
「バレバレでしたよ。ずっと気にしていたでしょ?」
頭を3度下げて、私はその場を去ろうとした。
「川島さん!手紙くらい添えたらどうですか?このままじゃ食べる気にならないですよ」
HGは紙とボールペンを取ってきますからと言って、小走りでどこかへ行った。