恋の坂道発進―2010年バレンタイン短編―
「お願いします!!」
塩崎憲司の顔を見ずに頭を下げた。
「こちらこそお願いします。それでは始めます」
ありきたりの挨拶。
声は、合格。
高くもなく低くもなく、ちょっと愛嬌のある声。
前方、後方の確認。
バタン。
乗り込んだ。
今までに嗅いだことのないいい香り。
車の中に芳香剤を置いているんだろうか。
それとも、塩崎から香っているのだろうか。
「どうかした?」
シートベルトを締めるのを忘れ、クンクン匂いを嗅いでいる私。
「す、すいません」
シートベルトを締めた。
そして……
運命の瞬間がやってくる。
遂に塩崎憲司の顔を見る瞬間が!!!!