1センチの距離
“せめて1枚”
その想いが届いたかのように,棗の蹴り上げたボールは2番と3番ボードに当たった。
……そう,2枚抜きだ。
「……当たった?」
「棗すごい!2枚当たったよ!」
呆然としてゴールを見つめる棗に近づく杏。
「ぁ……当たったよ,杏!嬉しい!」
杏の声で我に帰った棗は杏の手を取り喜んだ。
「棗ちゃーん,まだ蹴れるよー?」
ゴールから笑いながら叫ぶ千夏の声に,ほんとだ!と言って蹴る位置に戻る棗。
最後は外してしまったが,杏は1枚,棗は2枚と,良い結果を出すことができた。
「2人共,すごいじゃん!」
千夏は2人に近づき話し掛けた。
「まぐれですけど,すごく嬉しいです!」
「1枚も当てれないんじゃないかって思ってたんで余計に嬉しいです!」
「そっかそっか。1枚も当てれない男子もいるくらいだし,2人はほんとにすごいよ!」
笑いながら話す3人。
そんな3人の輪に入る様に声が掛かった。