I and You
一郎は、二つのロックグラスをテーブルに置いて氷を入れた。
ブランデーボトルを開けて、ブランデーをグラスに注ぎこんだ。

「そうだ!」
突然、一郎が思い出したように言った。

「ハムを買ってきたんだ。すまないが自分の車の中にあるから取ってきてくれないか? 僕は皿とフォークを用意するから」
一郎が頼んだ。

「わかったよ」
クローンを立ち上がり、一郎から車のキーを受け取ってリビングを出てゆく。

一郎は、立ち上がってクローンが外に出たことを確認すると、急いでスーツの外ポケットからアジ化ナトリュウムの入った小瓶を取り出した。

クローンが飲むロックグラスの中に、アジ化ナトリュウムを入れようとすると、右手の指先が震えた。
混入した毒物を飲めば間違いなく死ぬ。
そう思うと、一郎の体に緊張感が走り恐怖心が誘った。

一郎は、深呼吸をして心を落ち着かせた。
すると、今度はうまくグラスの中に入れることができた。

粉じょうの毒物は、ゆっくりとブランデーの中に溶け込んでゆく。
致死量に達する量を確認すると、マドラーでグラスの中を混ぜた。

一郎は、急いでキッチンに行って皿とフォークを食器棚から取り出した。



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