紅蓮--Requiem--
「な、なんだぁ。冗談だったんだ。ホントにビックリしたじゃない。」

玲はそう言って胸を撫でおろした。右横を見ると、彩華は怯えていたらしく、彼女の脚はガクガク震えていた。

そのことを問い質しても、彩華は自分が怯えていたことを、認めはしなかった。彼女は負けず嫌いなのだ。

しかし、この負けず嫌いが彼女の得意分野である、格闘技の強さの証とも言えるのだろう。

彩華は、格闘技の大会で数々の賞を持っている。業界では、彼女の伝説があり、事実から根も葉もない噂まで、数え上げればキリがない。

街の裏道にいる不良を五百人、片っ端から懲らしめてまわった事、暴走族を三分間で全員蹴り飛ばした事。どちらも事実である。

当人曰く、「ムカついたからやった」らしい。根は優しいので、彼女を嫌っている者はいない。彼女の力を妬んでいる、クラスの男子は別だが…。

こんな事を考えられるのは、よほど安心した為だろう。

「でも、さっき囚人の話、ホントだったら怖いよねー。それにしても、先生、遅いなあ。」

玲はドアから外をのぞき込む。

「確かに。もう着いてもいい頃なのに。」

「探しに行くで、倉庫も近いことやし。」

彩華はそう言って玲を引っ張る。

「待ってよ、私も行く。」

私は、二人を追いかけた。
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