もし会いにきてくれたら、もう離さない
――――
めいっぱいオシャレして玄関を出たところで、見慣れた顔がぬっと現れた。
「わっ、ちょっとビックリするから止めてよ、修。」
「悪ぃ、部活で遅くなった。どうせ行くんだろ?俺んち」
スポーツバッグを肩にかけた日に焼けた顔で、
「兄貴待ってるぜ。」
嬉しいことを言ってくれる修は、
「恭ちゃんの彼女、一緒に来てるの?」
「さぁな、見かけなかったけど、多分来てねぇんじゃね?そんなの気にすんな。たまに会う時ぐらいつまんねぇこと考えんなよ。」
「そだね。」
私の片思いを唯一知ってる友達。
***
「あら〜さっちゃん。いらっしゃい。」
おばさんにまねかれて居間に通される。
心臓はドキドキしっぱなし、髪変じゃないかなとか、子供っぽい格好かなとか、もう色々。
でも早く会いたくて、早く同じ空間に行きたくて、目線はキョロキョロソワソワ落ち着かない。
「おばさん、恭ちゃんは?」
「さっきまで、家にいたんだけどねぇ。」
早く会いたいよ。
―ガラッ
一瞬で下がった気持ちのメーターが玄関が開いた音で急上昇。
「ったくよぅ、なんでコンビニ行くのに30分も歩かなきゃなんねぇんだよ。しかもビールあんまし冷えてねぇし。」
…わぁ本物だ…。
「恭ちゃんっ!」
「お〜う、紗智。元気だったか?」
「うんっ!」
受話器越しじゃない恭ちゃんの声。
久しぶりの恭ちゃんの匂い。
「おいおい、抱きつくなって〜。相変わらずだな紗智は。」
「兄貴、酒なら中村さんとこの酒屋のほうが冷えてたんじゃない?」
「お前は相変わらずまじめだね、修。」
修の頭をガシッとした恭ちゃんはゆっくりと私を引き離し、
「ただいま、紗智。」
これ以上ない幸せな笑顔をくれた。