もし会いにきてくれたら、もう離さない
一人っ子の私にはぜいたくな賑やかな食卓。
おばさんがいて、おじさんがいて、修がいて、恭ちゃんがいる。
出てくるごちそうに、お腹が鳴りそう。
「紗智、よだれ。」
「やだっ、嘘」
「嘘。」
「ひどいっ、恭ちゃん。」
「恭介、さっちゃんだって、年頃なんだから、からかうの止めなさい。」
…そうだよ、私だって、もう年頃だよ?恭ちゃん。
「紗智をからかうのが俺の楽しみなの〜。」
子供扱いしてほしくないのに、そんな風に言われて嬉しくなるなんて、私もよほど恭ちゃん一色。
「そんなこと言ってないで、彼女は一緒じゃないの?そろそろ…ねぇ、食事のバランスとか、母さん心配してるのよ。一人暮らしも大変だろうに。」
それって、結婚しろとかそういうこと?
恭ちゃんがなんて答えるのか怖くて顔があげられない。
「母さん、たまに帰ってきたんだから、あんまに恭兄のこといじめんなよ。都会じゃまだまだ、恭兄の歳で結婚とか考えてる人、少ないと思うよ?」
「お、ナイスフォロー、弟よ」
「だけどこの間、電話で言ってじゃない。彼女出来たって。」
負けじとおばさんが会話を戻す。
一番聞きたくなくて聞きたかったこと。
顔をあげたら、恭ちゃんと目が合った。
「……」
「……」
何か言って…。
私から目を逸らさずに、恭ちゃんの口が開いた。
「彼女ねぇ、いないわけないだろ?一人寂しく、居られるほど優しくないのよ都会の夜は。」