もし会いにきてくれたら、もう離さない
――――
「大丈夫か?紗智。」
「…うん。」
「恭兄は昔から紗智が泣くのが嫌なんだよ。久々に帰ってきて、喜んでくれると思ったのに、紗智が泣きそうな顔ずっとしてただろ?だからきっと、見てられなかったんじゃないかな。」
やっぱり…気付いてたんだ、私が泣きそうだったこと。
野球の道具が並ぶ修の部屋で、揺れる風鈴の音色が鳴る。
「どこ行っちゃんたんだろう、恭ちゃん。」
「もう、遅い時間だな。」
日付が変わろうとしてる。
恭ちゃんがここに居る時間が減っていく。
またすぐ会えなくなっちゃうのに。
「そろそろ、送ってくよ。」
「やだ。」
「また明日来ればいいだろ?」
「やだ。」
そんなの駄目だよ。
明日になったら、恭ちゃん帰っちゃうかもしれないのに。
「プリクラ撮るって約束したんだもん。もしかしたら約束忘れてるかも知れないし…」
「…帰ってきたら、恭兄に話しておくから。」
「もっと話したいの。」
「プリクラ撮ってから話せばいいだろ?」
「それじゃ時間が足りないよ。」
「……じゃぁ、どうすんだよ。」
こうなるときかない私の性格は修が一番良く分かってる。
「恭ちゃんが帰ってくるまで、ここに居させて。」
「…はぁ…、少しは俺のことも考えろ。」
「修…?」
「…何でもない。駄目だって言ったってどうせ無駄なんだろ。」
困った顔のまま溜息をつく修に、顔の前で手を合わせて、窓から外を眺める。
遠くに見えるポツンと見える街の明かり。
あの中に恭ちゃんがいるのかと思うと幸せな気持ちになる。
どんなに輝く都会でも、素敵じゃないんだよ。
そこに恭ちゃんがいなきゃ、意味ないんだ。