もし会いにきてくれたら、もう離さない


物音がした気がして目を開けた。


網戸から聞こえる虫の声。


どれくらい時間が経ったのかわからないけど、窓から差し込む月明かりが、まだ朝が来ないことを知らせる。



寝息を立てる修を起こさないように布団から出た。



軋む階段をゆっくり降りて、台所を覗くと人影が見えた。




「恭ちゃん?」



「……」



お酒の瓶を片手に、振り返った恭ちゃんの顔は不機嫌に見えた。



「まだいたんだ。」



「恭ちゃんのこと待ってたんだよ?」



不機嫌に見えた顔が余計に曇る。

「……。」



私を通り越して、階段を昇る恭ちゃんの後を付いていく。



部屋のふすまを開けて、部屋に足を入れた恭ちゃんが振り返らずに言った。



「入ってくんな。」



「なんで?」



「…用があるなら早くして。眠い。」



「恭ちゃんと話したいから、ずっと待ってたんだよ?」



「……」



なんでそんなに機嫌が悪いの?


恭ちゃん…。



泣きそうになるのを必死でこらえる。


ここでまだ、私が泣いたら、もしかしたらもう、恭ちゃんがここに帰って来なくなってしまう気がして。




「話すのも駄目なの?」



「……」




部屋の奥に入った恭ちゃんの後を追って、中へ入った。

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