White Deck
序章
「……これは……一体?」

目に映る光景は正に地獄絵図であった。

先程彼女と喧嘩をし、一緒に住んでいた家を追い出され、仕方なく暇つぶしに夜の森を散歩して戻って来たら……どういう事であろうか?

民家のほとんどは燃え尽き灰となり、まだ残っているものも赤い炎を身に纏い、ガラガラと崩れ落ちていった。炎に雪が近づくと、溶けて降り懸かるも炎の勢いは全く衰えない。

家から逃げ出したのであろう人々には動きは無く、力無く地に横たわっていた。

村の至る所に凄まじい量の血痕が付いている限り、彼らはもう……。


村に入って行くと、どれも見知った顔ばかりで……少し悲しい気持ちになった。ほんの、少しだけ。

両親、兄妹、彼女に友人。親戚や近所のおばさん、無駄に元気な子供達……。

親しい人間はみな全て死んでしまったというのに涙すら出ない自分に少し悲しくなる。


パサァという鳥の羽ばたく音が聞こえて空を見上げると、人に翼が生えたような生き物が村から飛び出していった。

見た事は無いが、恐らくあれが魔物なのだろうと思った。この光景はあの魔物のせいだろうが、不思議と憎しみの感情は沸き起こってこなかった。

それどころか、むしろ好印象を持ってしまった。


……そうか、俺はこの村が嫌いだったのか。

だとしたら今の感情は全く不思議ではないと、納得出来る。

「ありがとう」

自分の気持ちに気付かせてくれて。


どれだけの時間が経ったのだろうか。いつの間にか炎は村から姿を消していた。

「……眠ろう」

民家の残骸の中から使えそうな物を軽く物色し、幼い日に友人とともに作った村から少し離れたところにある秘密基地に向かった。

幼いながらに作った立派な基地。といっても、廃屋を少しリフォームした程度であるが、眠るのに関しては全く困らない。古いながらも布団もある。少し臭う布団を被り、その日は眠った。
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