赤の世界
「…悠?」
涙を流したまま
一言も喋らない俺を
景と楓が覗き込む。
(もう行かなきゃ。)
「悠?!おい…っ!」
景の困惑の声がする。
俺は2人を振り切り
いつの間にか駆け出していた。
(行かなくちゃ。)
(行かなくちゃ。)
(行かなくちゃ。)
愛しい人に会える場所を
思い出したんだ。
あの場所に行けば
雪に会える。
(だから行かなくちゃ。)
走る足は雪が守ってくれた。
この腕も体も全て。
(いま会いにいくよ。)
そう唱えて。
渡された華奢な指輪を
強く握り締めて駆けた。