赤の世界
 
「どうして自殺なんか…?」

父親が目を潜めて俺に問う。

「君は娘と一緒に事故に合った」

「娘が死んだ責任を…」

「取ろうとしたのかい?」





「違います」

俺は下を向いたまま答える。

「俺はそんな強い人間じゃない」

「責任も取らずに彼女を忘れた」

「だけどやっと思い出して」

「彼女に会える場所を知って」

「会いに行った…」

「…それだけなんです」




父親がまっすぐ俺を見ている。
母親は俯いて泣いている。

「…そうか」

父親が重い口を開いた。




「君と娘との絆がどんなものか」

「…私達は知らない」

「君がどんなつもりで」

「自殺に至ったのかも」

「…私達は知らない」

「けれど私達は君に」

「責任など求めていない」

「だから自殺の原因が責任感なら」

「私達がそれを掃って」

「君は新しい人生を歩めばいいと」

「…そう思っていた」



ゆっくりと話される言葉は
低く低く俺の耳に響いた。


 
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