赤の世界
「けれど君に死を恐れぬほどの」
「娘との絆があるのなら」
「私達はその気持ちを」
「どう掃ってやればいいか」
「…情けないが分からない」
父親の声がいっそう低くなる。
俺は伏せていた目を開け
父親の方を向く。
「けれど君は私達の娘が」
「命の代わりに助けた命だ」
「どうか娘の分まで生き抜いて」
「その体を大切にして欲しい」
話を終えた父親は
俺に三冊のノートを渡す。
「娘の書いたノートだ」
「君の事を太陽のような人だと」
「そう私に話していた」
「よければこのノートは」
「君が預かっていて欲しい」
そう言い残して
2人は静かに席を立った。
言いたい事が絡まって
上手く声に出せずにいると
父親がドアノブに手をかける。
「待って下さい…っ!」
俺の喉からやっと声が出て
2人は俺に背を向けたまま
ぴたりと立ち止まる。