赤の世界
『12/12 (x)』
今日の天気は雪。
そして今日は――
悠くんの誕生日。
悠くんの眩しさの前じゃ
どんなものも霞んでしまうから
プレゼントが決まらなくて
一緒に買い物に出掛けた。
でも悠くんは
私が何がいい?って聞いても
優しい目をして笑うだけ。
いろんなお店を巡っても
全てのものがちっぽけ。
何も決まらないまま
時間だけが過ぎ去って
降りしきる雪で
寒さが増した。
ひとつの傘の中で
次のお店に向かう途中
破れたフェンスに引っかって
傘に穴が開いて
悠くんが破れた穴を
指先でなぞりながら
「傘が欲しいな」って
ぽつりと言った。
傘なんかじゃだめって
反対する私を笑いながら
「雪の他に欲しいものなんて」
「なんにもないもん」って…
「雪が濡れないように」
「俺は傘が欲しいんだ」って…
悠くんの誕生日なのに
プレゼントを渡されたのは
私のほうだったね。
泣きそうな私に
優しい手を伸ばして
頭を撫でてくれたね。
「出来れば小さい傘がいい」
「距離が狭まるように」
そう囁いた悠くんの声
愛しくて仕方なかったよ…。
赤いビニール傘を見つけて
「絶対これ!」って笑顔の悠くん。
生まれてきてくれて
ありがとう。