赤の世界
 
手を止めて過去を思う。

けれど何も浮かばない。

ズキンと音を立てて
頭の奥が静かに痛んだ。





(初恋もしていない?)

疑問が解消しないまま
シャワーを止める。

考えても考えても
時間だけが過ぎていった。





「悠まだ?遅刻するよー」

そう声を掛けられて
景にも彼女がいない事に気付く。

景は優しい目と親切な性格で
中学の頃から女のコにモテて…

そんな景にも彼女はいないんだ。

好きな相手が
いないからかもしれない。





17年恋をしていなくても
普通の事なのかもしれない。

身近にいた仲間の存在に
俺は安心を覚える。

風呂場から出て
タオルで顔を拭くと
すっかり気も落ち着いて
“朝の悠”に戻っていた。


 
< 37 / 186 >

この作品をシェア

pagetop