赤の世界
手を止めて過去を思う。
けれど何も浮かばない。
ズキンと音を立てて
頭の奥が静かに痛んだ。
(初恋もしていない?)
疑問が解消しないまま
シャワーを止める。
考えても考えても
時間だけが過ぎていった。
「悠まだ?遅刻するよー」
そう声を掛けられて
景にも彼女がいない事に気付く。
景は優しい目と親切な性格で
中学の頃から女のコにモテて…
そんな景にも彼女はいないんだ。
好きな相手が
いないからかもしれない。
17年恋をしていなくても
普通の事なのかもしれない。
身近にいた仲間の存在に
俺は安心を覚える。
風呂場から出て
タオルで顔を拭くと
すっかり気も落ち着いて
“朝の悠”に戻っていた。