赤の世界
 
(仕方ないんだ。)


開き直った俺は
アユミの所へ行こうと歩き出す。

不意に携帯が鳴った。




『着信 柏木 景』



(なんだよ。)

さっきまで一緒だったのに
そう変に思いながら電話に出た。




「もしもし、何?」

「あ…悠?」



何かを言い出し辛そうに
景が口ごもるのがわかる。



「どうした?」

「あんんまり言いたくないけど…今日も女んとこ行く気?」





心の中で、その話か…と思った。





「いや、今日は帰るよ。」

「ホント?」

「あぁ、ホントだよ」

「飯誘ったのに食べねーし」

「…まさか心配してる?」


ガラじゃねーよ
そう言って笑ってやった。

景は俺の笑い声に安心したのか、
そうだなと言って一緒に笑う。


「じゃあ、また明日!」



(ごめんね。)


電源ボタンを押して電話を切る。

じわりと、心が痛んだ。


 
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