赤の世界
俺の伸ばした手は
何故か彼女に届かないのに
彼女の伸ばしてきた左手は
まっすぐと俺に届く。
長いコートの袖から
白くて細い指が覗いている。
握られていたのは
赤くて透明な傘だった。
気付くと彼女だけでなく
俺も傘をさしていなかった。
肩が雪で濡れている。
(ありがとう。)
傘を受け取ろうとすると
彼女の左手の薬指に
華奢な作りの指輪が
はめられているのに気付いた。
(そうだったんだ。)
愛する人がいるから
君はそんなに綺麗なんだね。
幸せだから危険を忘れて
優しい目で笑っているんだね。
彼女は答えずに
にこにこと俺に笑いかける。
そこで夢は終わった。