赤の世界
どうしてこんなに
(あったかいの…?)
楓から渡される熱は
色んな想いを教えてくれた。
俺の中に入り込む想いは
知らなかった感情。
優しいのに強くて―
眩しいのに痛くない――
胸は満たされていくのに
何も言葉に出来ない。
これが愛情なの?
こんなに綺麗な感情が
全ての人間の中にあるんだね。
美しい楓だけじゃなくて
こんなに無知な俺の中にも。
「心音が聞こえる…」
俺の胸に耳をあて
目を閉じたままの楓が呟いた。
「少し早いね…」
「そうかな…」
それ以上
返事が出来なかった。
情けないことに
俺は泣き出しそうだった。
2年前の交通事故の後
病院のベットで目覚めてから
欠落感に襲われて
飢えるような寂しさが苦しくて
怪我をしながら生き残れたのに
何も嬉しくなかった。
生きることが無性に
辛いとさえ感じていた。
それでも必死にもがいて
痛み止めを沢山探しながら
求められることを求めて
一生懸命生きた。
そして今
あれから初めて――
生きていてよかったって
死ななくてよかったって
やっと思えた。
(涙が出るほどに。)