赤の世界
音を立てずにゆっくりと
エレベーターが上りだす。
「間に合うかなぁ」
楓が不安そうに眉を下げる。
「大丈夫だよ」
楓の手を取って強く握り締めると
楓は笑顔になって頷いた。
最上階にたどり着いて
隅の立ち入り禁止の柵を超える。
細い階段を上ると
俺たちを待っていたかのように
大きな赤い太陽が
丁度顔を出すところだった。
「わぁ…っ!!すごい…」
キラキラと眩しい赤く輝く太陽は
ゆっくりとその強い光を
街中に広げていく。
「絶景だね」
「うん、すごいよ…」
屋上から見渡せる全てが
太陽に染められていく。
海も道路も…
立ち並ぶビルやマンションも。
俺達も、太陽に染められている。
温かな色に包まれている。
吐き出した息や
冷たい空気さえ
太陽の光に包まれて
とても温かく見えた。