赤の世界
 
音を立てずにゆっくりと
エレベーターが上りだす。

「間に合うかなぁ」

楓が不安そうに眉を下げる。





「大丈夫だよ」

楓の手を取って強く握り締めると
楓は笑顔になって頷いた。

最上階にたどり着いて
隅の立ち入り禁止の柵を超える。

細い階段を上ると
俺たちを待っていたかのように

大きな赤い太陽が
丁度顔を出すところだった。





「わぁ…っ!!すごい…」


キラキラと眩しい赤く輝く太陽は

ゆっくりとその強い光を
街中に広げていく。





「絶景だね」

「うん、すごいよ…」


屋上から見渡せる全てが
太陽に染められていく。

海も道路も…
立ち並ぶビルやマンションも。





俺達も、太陽に染められている。

温かな色に包まれている。

吐き出した息や
冷たい空気さえ

太陽の光に包まれて
とても温かく見えた。


 
< 75 / 186 >

この作品をシェア

pagetop