赤の世界
いつの事だろう。
あのマンションの屋上で
確かにあの景色を見た。
今日のように
眩しい赤い光の中で
誰かとあの景色を見たんだ。
覚えているのは――
今朝の楓のような…
細くて白い首と
腕の中の長くて綺麗な髪。
真っ先に浮かんだのは
夢の中の女のコだった。
だけどこれは
夢の世界の事じゃない。
夢じゃない。
現実で、いつか。
気になって仕方がない。
そうやって何時間でも
考えていられそうだ。
不思議と何を考えても
今度は頭痛がやってこない。
あの場所では
あんなに酷い痛みだったのに。
(あの場所がいけないの?)
ふとそんな思いがよぎる。
俺は気付くとコートを着て
あの場所へ駆け出していた。