赤の世界
「楓を夢で見たことがあるんだ」
不安そうな表情の楓に
小さい声でそう告げた。
楓はきょとんとして
後から優しい微笑を見せる。
「ホント?嬉しいな」
にこにこと笑う楓を横目に
俺は少し疲れていた。
そんな言葉じゃなかったんだ。
俺が望んでいたのは。
「楓に会う前からなんだ」
少し真剣な顔をして言う。
会う前から夢に見たんだよ。
不思議だと思わない?
俺は不思議で不思議で
息が詰まるほど気になるんだ。
それなのに楓は――
「…ロマンチックだね」
そう言って笑うだけ。
大して不思議にも
思ってなさそうな笑顔で。
そうだよね。
身に覚えのないことなんて
期待されたって答えられない。
否定なんて
予想の範囲内だったのに。
実際にされると
どうしてこんなに辛いんだろ。
どうしようもない思いで
心が砂のように渇いた。
飢え出している。
楓と一緒にいるのに。
寂しさで出来た苦しみが
静かに俺を飲み込んでいく。