赤の世界
 
不意に携帯が鳴る。

目を向けると文字が見える。



『着信 アユミ』



その字を見て胸が裂けた。

俺が彼女の代わりに
沢山の女のコを求めて

灰色の恋愛をして
汚れていたのを思い出す。


彼女が見当たらないのが
その罰みたいに思えて

胸が裂けた。





(…もう会えないの?)




…ズキン。

いつかのように頭痛が答えた。





(嫌だ。)

(そんなの嫌だ。)


否定するように
俺は頭を振り続けた。

頭に充満する痛みが
空っぽの胸にまで響いた。

上手く歩けない。
上手く前を見れない。


一体どうすれば彼女の事を
取り戻せるのか分からない。


 
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