Blood†Tear
森の中に佇む、レンガ造りの小さな一軒家。
煙突のある赤い屋根に丸く小さな窓。
玄関の傍には【CAFE ASILE】と書かれた看板。
煙突から立ち上る煙は風に乗り、辺りに料理の良い香りを運んでいた。
その店の前にやって来た2人の男性。
「味はまぁまぁだが、食えねぇ事はねぇから」
灰色の髪の男性はおどけたように笑いながらそう言うと、店のドアに手をかけた。
ドアを開けると、客を知らせるベルがカランカランと高く鳴り響く。
ドアの隙間からは甘い香りが漂って来た。
男性が店に足を踏み入れたその時、勢い良く飛んでくる何か。
あまりにも突然だった為、男性は交わす事が出来ず、それは彼の顔面に見事にクリーンヒット。
「ってぇー!」
猛スピードで飛んできた物体、フライパンが床に転がると同時に叫ぶが、彼の叫びはずくさま苦しそうな声へと変わった。
「誰が不味いて!?誰が食えへんて!?」
顔を両手で覆う彼はいつの間にか羽交い締めにされていたのだ。
彼の背後から腕を回し首を絞める、水色の髪を団子に結った女性。
彼女はオレンジ色の瞳で彼を睨む。
「正直に不味とは言ってねぇ!」
「同じや!それに、獣は立ち入り禁止!」
彼女の指差す先には見慣れぬ標識。
【獣立ち入り禁止】と書かれた珍しい標識が扉に掛けられていた。
「…ぐ、ぐるしぃ……」
更に首を締め上げられ、苦しそうに顔を歪ませながら彼女の腕を叩くが、彼女は容赦する事はなかった。
そんな2人を呆気に取られたように見つめる茶髪の男性。
「ん?あら、よぅ来はったな~。座って座って」
呆然と立ち尽くす彼を見て、彼女は腕の中の彼を放す。
崩れ落ちる彼を放置し、いらっしゃいとにこやかに席へと案内。
解放された男性は死ぬかと思った…と呟きながら向かい側の席に座った。