Blood†Tear
レグルの後ろで待機する兵士は腰の剣に手を伸ばすが、彼は片手を挙げてそれを制する。
「貴方に訊きたい事がある。ベイン・ローグ、貴方は何者だ?」
剣を握るローグは迷っていた。
幼い頃から王になる為剣術を身に叩き込まれてきた彼に、戦闘経験のないこんな自分が勝てる筈がない。
しかし彼は何かを知っている。
知られてはならない何かを…
「何を言っている?私はフェルノーク国の現王、ベイン・ローグだ」
「貴方が国を留守にしている間、調べさせてもらいました。確かに、貴方の名を住民達は知っていた。国を豊かにしてくれた英雄だと」
剣を下ろし顔色一つ変えず言うローグだが、レグルの探るような目つきに不満そうな顔をする。
「しかし、10年前から様子が変わったと言うんですよ、全ての民が」
「くっ……」
フェルノーク国の王は代々ベイン・ローグと名乗り、決して顔を見せる事はなかったと言う。
その為、現王の性別も年齢も、全てを知る者はいない。
素顔を見せない為、他国との交流は一切できない。
国民にまで姿を現さない者が、国を治める王と言えるのだろうか…
そんな疑問を他国の者は抱くが、王は国民の事を一番に考え、大切にする優しい人だと言う。
しかし10年前、ベイン・ローグと名乗る彼は国民の前に姿を現した。
顔を隠さず素顔をさらし、他国との交流を始めた彼を初めは不信に思ったが、国が豊かになり始めた事で、疑うのを止めたのだ。
「貴様、フェルノーク国の王、ベイン・ローグではないな?」
「私は、私はベイン・ローグ…フェルノーク国の王、ベイン・ローグだ……!」
微かに見せたローグの動揺する姿。
その姿にレグルは確信し言うと、声を荒げローグはレグルへと剣を振るった。