Blood†Tear
鍵を受け取った彼女は伏せていた顔を上げ、揺れる瞳を彼へと向ける。
「…私が此処から逃げれば、手を貸した貴方が苦しむ事になる……それでも貴方は傷つかないと……死なないと、そう言える……?」
未だ信用できない彼女は、貴方まで巻き込む訳にはいかないと言う。
しかしコウガは彼女を安心させるように、優しい瞳で彼女を見つめ頷いた。
「俺は死なないよ。君だって死なない。ジークもレグルも、フィーヤもこの国の人達も皆、君の前から消えたりしない。絶対に」
真っ直ぐ見つめる彼の瞳は嘘を言っているようには見えない。
彼女は迷っているのか彼から目をそらし、受け取った鍵を握り締めた。
「…お嬢様!……シェノーラ・フィール・ラグナー様……!」
静まり返った部屋の中、突然彼女の名を呼ぶ声が屋敷の外から聞こえてきた。
彼女をお嬢様と呼ぶ者は限られている。
その者の名を小さく呟くと、床を這い車椅子へとよじ登る。
窓辺へ近づき見下ろすと、腹を押さえ此方を見上げる男性の姿が目に入った。
窓から覗いた彼女の姿を目にすると、ホッとしたように息を吐く。
「お嬢様…否、シェノーラ様、私ジーク・ブロッガー、貴方様をお迎えにあがりました」
片膝を付き右手を胸に添える彼は彼女を見上げ微笑んだ。
濡れた髪の毛先から雫が零れ、雨で重くなった服は血と泥で汚れている。
「…私は貴方を、不幸にするかもしれない。危険な目にあわせるかもしれない。それでも私は、自由になってもいいの…?」
自分を救おうと手を伸ばす彼等の言葉に揺れる心。
自由になる事を望んではいる。
しかし、誰かを犠牲にしてまで自由になろうとは思わない。
迷う彼女の問いに彼は立ち上がり、貧血をおこしながらもしっかりと彼女を見つめた。