Blood†Tear

ふらふらと立ち上がり、霞む視界の中に彼女の姿を捉える。




 「不幸になんかなりませんよ…私は貴女と一緒に居れるだけで、幸せなのですから……」


優しく言うと、彼は彼女に手を伸ばす。




 「私は絶対に、貴女の前から消えたりしません…
だから、私の傍に居て下さいませんか、シェノーラ様」


真っ直ぐ見つめる紺の瞳。

握っていた鍵へと目を向けると、彼女は決意したように握り締める。



ふと後ろを振り返ると、静かに部屋を出るコウガの姿が目に入った。

ゆっくり扉を閉める彼にありがとうと呟くと、彼は優しく微笑み部屋を後にした。

手を貸してくれた彼に感謝しながら、足枷へと手を伸ばす。






窓から覗いていた彼女の姿が突然消え、動揺したジークだが、再び顔を見せた彼女にホッと胸をなで下ろす。




 「ジーク、私にとって貴方は決して失いたくない大切な存在。だから此方からもお願いするわ。私の傍に居て下さい、ジーク・ブロッガー」


 「…仰せのままに」


彼女に胸に手を添え頭を下げる彼はニッコリと微笑んで両手を広げた。


身を乗り出す彼女は涙を浮かべ、心からの笑みを向けると迷いもなく窓から飛び降りる。


籠の中に捕らわれた鳥が羽を広げ飛び立って行くのだった。





彼女を受け止めたジークは尻餅をつきながら抱きかかえると、痛みに小さく声をあげた。


開いた傷口に気づくと胸の中の彼女はすぐさま治癒をする。


その力を使わせまいと遮るが、彼女は止める事なく彼の傷を完全に治すのだった。





 「ありがとう…ありがとう、ジーク……」


 「放しません…もう放しません、シェイラ……」


胸の中で涙を流す彼女を抱き締め、柔らかな髪ににそっとキスをする。




様子を伺いに来たコウガ達は遠くから2人を見守った。




降り出した雨は止み、厚い雲に覆われた空から月が顔を出す。


暗闇の中綺麗に輝きながら、2人の幸せを祝っていた。






< 121 / 324 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop