Blood†Tear
カーテンの隙間から日差しが差し込み朝の訪れを知らす頃、ベッドの中で眠っていたコウガは目を覚ます。
数回まばたきを繰り返し、昨日負った傷口へと手を伸ばす。
しかし、既にそこに傷は無く、傷痕すらも残っていなかった。
初めから傷など負っていなかったような、まるで夢を見ていたのではないかと疑いそうになる。
ふと腹部に違和感を覚え視線を下ろすと、綺麗な銀色の髪が目に入った。
少し身を動かした為、それはサラリと揺れ落ちる。
「…ごめん、起こしちゃったな」
「嫌…悪い、寝てしまったようだ……」
顔を上げたのはクレア。
彼女は昨晩ずっと傍についていた様子。
しかし、疲労が溜まっていたせいもあり、何時の間にか眠ってしまっていたようだ。
「調子はどうだ?」
「あぁ、大丈夫。心配ないよ」
「そうか……」
正直調子は良い方だ。
何時もより断然調子が良い。
問題ないと微笑んで見せるが、彼女は彼から目をそらす。
「約束してくれないか、クレア」
「約束……?」
彼は一度頷くと、真剣な面持ちで赤い瞳を真っ直ぐに見つめた。
「二度とあんな真似しないって。死ぬなんて、殺せなんて言わないって、約束して欲しい」
「…しかし、この血は絶たなければならないもの。この世から抹消する為には、生き残りである彼奴を殺し、私も死ぬしか術はないんだ……」
早朝から、重い空気が漂った。
部屋の外は明るいと言うのに、この部屋の中は不思議と闇に包まれているような、そんな感じ。
「君は彼等と違う。現に君は今、正気でいるじゃないか。確かに、君の心には闇があるのかもしれない、それに手を伸ばせば血に狂うのかもしれない。
だが、君はそれに抗い、絶え、抵抗し続けてきた。ならばこれからも君はその闇を否定し、正気でいられる筈だ」
「…だが、何時血に狂うかも、何時正気を失い人を襲うかもわからない……この中の誰かを、貴方達全員を、殺すかもしれない……それでも死ぬなと言うのか、貴方は……?」
伏せていた顔を上げ、悲しそうに言う彼女。
その赤い瞳は揺れていた。