Blood†Tear
空は雲に覆われて、冷たい風が吹き抜ける。
静まり返った町中には、月明かりも、部屋から漏れる光も無く、真っ暗な闇に包まれていた。
人々が寝静まる真夜中の事、1人外に出て煙草を吸うのはレグナード・ディ・ルーガン。
玄関先に腰掛ける彼は月のない空を見上げ煙を吐いた。
ふと何かに気付き、彼は物音のした方向へと顔を向け目を細める。
その青い瞳に映ったのは、暗闇の中を足を引きずりながらふらふら歩く何者かの姿。
ブカブカのローブを羽織り顔を隠すその人物。
怪我をしているのか荒い息をする。
煙草の火を消し立ち上がったレグル。
声をかけようと近寄るが、その人物はレグルに気付くと後退る。
「…嫌…だ……もう、嫌だ……あんな…所…には、戻りたく…ない……!」
震える声で言うと、潜ませていたナイフを構えレグルに突っ込んだ。
「ちょっと待て……!」
突然の事に驚くが、それを難なく交わし、腕を掴むと器用にナイフを奪い取る。
そして手の届かない所へ放り投げ、音を立てて闇へと消えるのを見送った。
「…っ……」
「おい、どうした?」
攻撃を交わされたその人物はバランスを崩し、そのままレグルにもたれかかる。
倒れてきたその人物を支えるが、彼は何かに気づき眉を潜めた。
「…血……?」
生暖かい液体に触れた掌を見つめ言葉を漏らす。
よく見ると、ローブは所々切り裂かれ、べっとりと血がついている。
何か嫌な事に巻き込まれるような、そんな予感が頭をよぎる。
しかし、お人好しなレグル。
彼は面倒臭そうに溜め息を吐きながらも、気を失っているその人物を軽々と肩に担いだ。
そして静かに玄関の扉を開くとリビングへと運ぶ。
あまり振動を与えないよう気をつけながら、その人物をソファーに寝かせるのだった。