Blood†Tear
昨晩から降り続いていた雨は止み、雲の切れ間から月明かりが漏れ初める。
ぬかるんだ地面に水溜まりができ、木葉の先に溜まった雫は零れ落ちた。
一粒の雫が湖に落ち、静かな湖面に広がる波紋。
そろを見つめるのは、ブカブカなローブを身に纏う女性、アンバー。
水面に映る自分の姿を瞳に映すと、その姿を消すように小石を投げ入れ其処から立ち去る。
しかし、湖に背を向けた彼女は動きを止めた。
「…マット……」
「やぁ№13、久しぶり。否、1日ぶり」
大木の枝に腰掛け片手を挙げるのは、乱れた茶の髪に黒縁眼鏡、汚れた白衣を身に纏う、彼女の製造者であるマット・ディレクト。
膝の上にはアンドロイドの少女、アリューを乗せている。
「あぁ、アンバーと呼ぶべきかな?」
その言葉に反応する彼女。
何故それを知るのかと目を見開いた。
「どうだった?かりそめの1日は」
彼女の反応に薄ら笑いを浮かべ枝から飛び降りる。
白衣が小枝に引っかかり破けるが、気にする事はない。
「もしかして、逃げられているとでも思った?そんな事、あるわけないだろ?只の人形如きが」
嘲笑う彼はずれた眼鏡を押し上げ冷たく言い放つ。
彼女の居場所は初めからバレていた。
なのに彼は直ぐには手を出さず、1日の猶予を与えたのだ。
彼に生かされていた自分はなんて愚かなものななだと、呆れ果ててて言葉もでない。
あまりの愚かさに笑いこみあげてくる。
何故笑うのか不思議に思っていると、彼女は伏せていた顔を上げマットを睨む。
「たった一日だけだったけれど、楽しかった。人の温もりと言うものを感じ、優しさに触れた。
人間というのは、良いものだとさえも思ったよ……」
悲しそうな翡翠の瞳。
人並みの感情を持つ彼女にマットは目を細め嫌味に笑う。
「それは良かった。でも残念、君は此処で死ぬ運命だ」
彼はそう言うと、隣に待機するアリューの背をトンと押す。
すると彼女は虚ろな瞳にアンバーを映し、地を蹴ると前方の彼女へと襲いかかった。